
パイロットの訓練とは何か?飛行機を飛ばすってどうやるのか?
思い返す充実した基礎訓練の日々。
6大修行についてこれから語ることにします。
世界の歴戦の飛行機乗り達にも必ずあったパイロットの卵時代。
プロのパイロットになるのに必要な基礎訓練プログラムは世界でほぼ統一されています。
訓練プログラムの課目を大別して勝手に6大修行と名付けました。
それでは紹介しましょう。
1.Touch & Go (TGL):離着陸
2.Air Work (A/W):空中操作
3.Navigation(NAV)=Cross country(XC):航法
4.Instrument Flight:計器飛行
5.Oral :口述
6.Emergency:緊急操作
この6つを見て誰でも内容が想像できるのは、離着陸のタッチ&ゴーでしょう。
離陸して着陸するだけでしょ?と思うかもしれませんね。
侮ることなかれ。
Touch & Go(TGL)は最も基礎的な訓練であると共に、6大修行全てが凝縮されている集大成のような訓練なのです。
飛行時間が150時間以上のだいたいのパイロットは一番好きな訓練はTGLと答えるんじゃないでしょうか。
私もプライベートでこのセスナ好きに使っていいよ!と言われたら間違いなくTGLしますね。
TGLと略すのはTouch & Go /Landingから来ています。CAC(航空大学校)ではタッチンって略してました。
概要と私の思い出をさくっと紹介します。
Touch & Goを簡単に説明すると
空港の周りを四角形に飛んで帰ってくること。
です。(下の図を見て下さい)
Touch & Goにおけるそれぞれ四角の辺(レグと呼びます)は、
離陸上昇→アップウインド
旋回してダウンウインドに入るまで→クロスウインド
滑走路と平行に飛ぶ→ダウンウインド
ファイナルに向かうまで→ベース
着陸までの直線部分→ファイナル
と呼びます。この4つのレグを飛んで連続で離着陸を行うこと、それがTouch & Goという訓練なのです。
そしてこれはジェット旅客機でももちろんやります。
初めて飛行機を飛ばした時、初めてジェットを飛ばした時、、、
素晴らしい体験でした。
Touch & Goは難しいの?
正直、四角に回るのは、一生懸命準備すれば飛行機に乗り始めて5~6時間あれば綺麗に回れるようになります。
でもそこで上手く離着陸できるかってのはまた別なのです。
パイロットとしての訓練を初めた頃のジレンマ
1周するのに約7分かかるTouch & Go
ファイナル~着陸~着陸後の滑走まで長く見積もって2分かかるとしましょう。
つまり残り5分がファイナルに入るまでのパイロットの「持ち時間」と考えて下さい。
ー初心者トロポの頭の中ー

離陸するぞ、しっかり滑走路の中心をキープして、スピートをチラチラ確認して、よし73ktになった!ゆっくり操縦桿を引き上げて..上昇させて…ギアを上げて、ちゃんと滑走路の延長を飛ぶようコントロールして、フラップをあげて…チェックリストをして手順に抜け漏れがないか確認!
クロスウインドへのターン、まずはクロスウインド方向を目視で安全確認、機体の傾きは25度にしてピッチ支えてパワー足して…次のクロスウインドに向かう方位に対してリードをとって機体の傾きを0にしてピッチ抑えてパワー引いて、ずれたらなおして、決められた高度で上昇から水平飛行にうつるようコントロール、ここでパワー、プロペラの回転数、燃料の混合比のセットして、チェックリストで確認、よしダウンウインドへの旋回開始点までこのまま飛んで、ダウンウインドの方を目視で安全確認して、機体の傾きは25度にしてピッチ支えてパワー足して…次のダウンウインドに向かう方位に対してリードをとって機体の傾きを0にしてピッチ抑えてパワー引いて、ずれたらなおして、ベースへの旋回開始点までこのまま飛んで、滑走路の末端が真横に来たら時計のタイマーをスタートさせて、ギア・フラップを下げて、ピッチパワー方位がずれないように修正して、ベース方向を目視で安全確認、機体の傾きは25度にしてピッチを降下姿勢にセットしつつパワー修正して…ベース方位に対してリードをとって機体の傾きを0にしてピッチ抑えてパワー引いて、ずれたらなおして、ファイナルフラップをおろして、姿勢とパワープロペラの回転数をセットしなおしてチェックリストやって最後の旋回開始点を気にしつつ今の高度は適性なパスに対して高いのか低いのか?、あもう旋回開始点がくる…ファイナル方向を目視で安全確認、機体の傾きは25度にしてピッチ支えてパワー足して、ファイナル方位に対してリードをとって機体の傾きを0にしてピッチ抑えてパワー引いて、しっかり滑走路の延長に飛行機を位置づけれるように方位を考えて…
これ全部読めた人、ごめんなさい、疲れたでしょう。
ここからやっとファイナルにのってアプローチしていき着陸までいきます。
アプローチや着陸はさらに考えることが色々あるので割愛します。
着陸技法を論じるブログではないので。
さて上に書いた頭の中の思考や操縦は「持ち時間」の5分の間に行われることです。
訓練し始めてすぐにある壁にぶち当たります。
「ついさっき行った着陸の分析と反省と次の着陸ではどう修正するか、を考える時間なくない?」
上手にTouch & Goを回れるようになっても、それを訓練として成り立たせるには1本1本の離着陸に前回の反省を踏まえた修正が必要なのです。
そして飛行機は手動で操縦しているので長々と書いた上記の操縦に必要な思考は必ず行います、
これでも初心者の頭の中なので「飛行機のコントロールだけしか」書いてません。
(慣れてくると風に関しても考えます、教官から色々な指摘も受けます、他の機体が今どこを飛んでいるかも把握します、突発的な管制官とのやりとりが発生した場合その状況認識と対応も必要になります)
さて自分が思考できる「持ち時間」の5分の中で次の着陸のための分析、反省、を行えるのはどのくらいあるでしょうか?
最初のうちは、、、1分もないかもしれませんね。
そうここでぶち当たった壁とは、
・きちんと飛ぶことに力を使えば使うほど自分の「持ち時間」が減り、訓練の反省の質が落ちる。
・訓練の反省の質を上げるのに「持ち時間」を増やそうと飛行機を飛ばすことを「あえて疎か」にすると、「飛行機をコントロール」できない。
どちらも
訓練が成り立ってない
のです。
これが誰もが陥るパイロットの訓練を始めた頃のジレンマです。
不安に思うことはない
ここまでの記事を読んで操縦は無理ゲーだと感じた人もいるかもしれませんが、安心してください。
多くの人は努力すればちゃんとできるようになります。
それにボナンザのようにランディングギアの格納と展開ができる訓練機はそうそう滅多にありません。
訓練機の代表格セスナはずっとギアが降りっぱなしの飛行機だし、最近航空大学校でボナンザの代わりに導入されたシーラスという機体もギアが降りたままの機体です。※1
ギアの操作がないだけでかなり楽ですから、初心者にぴったりの機体です。
セスナやシーラスの後はギアの操作が必要な機体で訓練しますがその頃にはパイロットとしての基礎ができているのでスムーズに対応できるでしょう。
※1 航空大学校のシーラスにはオプションでギアレバーを取り付けており、航空大学校の学生は最初からギアの操作やスピードの意識付けをした訓練をしているようです。
Touch & Goが楽しい
すっかりプロのパイロットライセンスが取れる頃になると、Touch & Goは本当に楽しくなります。
考えることが多いですが、工夫次第でいくらでも上達します。それでいて上達に終わりがないのです。
完璧にできそうで、できない。届きそうで届かない。
なんだか悪い男/女みたいですね笑
1度、1kt、1ftへのこだわり
CACで厳しい訓練をしていた頃の思い出

(よしよし完璧なダウンウインドを飛べてるぞ)

今どこ飛んでるの?
ダウンウインド0.1nm右にずれてるよ、気づかない?

修正します!!!!

どれだけ地上で念入りに準備してもそもそも正確なダウンウインドを飛行しないと降下計画が崩れてくるよね。

はい!(正論すぎてもうはいしか言えない)

まさか
自分は上手に飛ばしていると思っている?
1度、1kt、1ftのズレ、こだわってる?

………..はい………..
フライトタイム100~150時間くらいから楽しめるようになる
同じ飛行機で真剣に訓練していれば初心者でも100時間を超えてくれば操縦はうまくなります。
実際フライトタイム100時間超えたくらいからTouch & Goは楽しみな訓練になりました。(それまではわりと辛かった)
だいたいの軽飛行機はとても良くできていて、パイロットの思う通りに飛ばせるようになります。
会社や訓練所そして国によって教え方が違う
面白いのが教え方が訓練所によって全然違うのですよ。
例えば着陸技法1つとっても、
航空大学校では定点着陸。つまり決まった範囲に決められたパスで常に着陸できるようにすること。できないならゴーアラウンド。(大型機の運航を見据えての教育)
海外で訓練する某私立大学は、もちろん定点で着陸できればそれに越したことはないものの、滑走路が十分長いのだから接地点が多少ズレてもしっかり決められたパスで安全に着陸すること。(ジェット機の着陸方法は経験を積んでジェットに乗るようになったらそこで身につければいい)
上記のような違いがあります。
これらは別々の訓練ソースの人と議論していて気づきました。
エアラインパイロットになる上で大事なのは、そういう色々な教えを自分達の糧にすることでした。
軽飛行機とジェット機では飛ばし方が違うけど
軽飛行機とジェットでは飛ばし方がけっこう違うのです。
でもパイロットとしての基礎はジェット機でも大いに活きます。
マニュアルでのILSだけでなく、Visual ApproachやContact Approach、ミニマムサークル、Cancel IFRなんかはパイロットとしての腕試しに良い機会で力が入ります。
今エアラインにお勤めの方々は、パイロットが
「この間Visualやってさあー」とハナシの花を咲かせていたらその表情に注目してみてください。
楽しそうにしてると思いますよ。
まとめ
Touch & Goは空港の周りを四角に回り連続で離着陸する訓練。
初心者はジレンマに陥る。が
上達に終わりがないから辛くもあり楽しくもある。
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コメント
トロポさん
こんにちは。
事業用操縦士の実地試験は
メンタルを含め、どのくらい余裕がなくなるものなのでしょうか。また、1日の勉強量からリフレッシュの方法などが知りたいです。また、どのような気遣いが嬉しいと感じるのでしょうか。お忙しいと思いますがご回答頂けたら幸いです。
人や訓練所の厳しさによりますが私なんかはラインの返信は1週間しなかったりとかありました笑
気遣いに関しては応援の言葉をかけ続けてもらうのが嬉しいものです。後は勉強時間の捻出が大事なので、時間を取らせない、奪わないようにされると良いかと思います。